シナリオ:A Thousand Words To Die
1000語は長かったので500語目安でプレイ。でも正確な語数は計っていない。目分量。
夜中にやらなければよかったです。
キャラクター
🃏 → 13🔶
女性。52歳。
🎲1d6 → 2
マニアックさ:低め
普段は恋愛文学を好む小説家。
執筆
作者はタイプライターの前に座り、始めの一文字を撃ち込んだ。たっぷり寝た、むしろ寝すぎたあとの指先の動きはごく滑らかだ。しかし、肝心の言葉の出力までが滑らかに紡がれるわけではない。女はまだ熱を保っている白湯を一口飲んで、ため息をつく。ぎいと鳴る椅子に、足元の猫が何かごにゃごにゃと言った。
🃏 → 6🧡
50語
HEARTS:CREEPING NARRATIVE(忍びよる物語)
ようやく動いた指先は、足元の猫について、とりとめもなく書き始める。気紛れにネズミ――否、他の生物を襲っては、玩具で弄ぶかのように味わう。あくび――否、大きく開いた口は怪獣のようで、それに血が付いていたっておかしくはない。
和やかな描写から怪しくなる雲行きに、女は想起する。子どもの頃から見ている悪夢。それによく出てくる、怪物のことを。
🃏 → 2🧡
そいつは低く、地を這うような、しわがれた声をしている。いつも何かを語りかけてくるが、内容はいつも聞き取れない。異国語のようなそれがまた恐ろしい。そいつはきっとこう言っている――お前を食ってしまうぞ! と。
ふと恐ろしくなって、背後を振り返った。何もいない。当然だ、女は一人暮らしだ。静かな室内を、ただ猫が歩いていくだけ。
一息ついて、ぬるくなった水を口にする。怖い話を書いている側が怯えていては、世話もない。だが、読者に体験をもたらすには、案外いいのかもしれない。つまりは、筆が乗ると言うことでもある。
🃏 → 11🍀
その恐ろしい生き物は、なぜ恐ろしいのか? 夢という非日常空間だからこそ恐怖が増幅されていて、だから怖いに違いない。単に生物として存在しているなら、――スリルという意味での恐怖は得られるけど――女の望む恐怖の象徴であるとは言い難い。
女は書き連ねた。そいつは、人を食う。その恐ろしい牙で。普段は気紛れで、道理の分かったような顔をしていながら、その中身は本物の怪物だ。腕力や脚力は人の何倍も強力で、人を狩猟対象としか見ていない。命乞いなど聞きやしない。あっけなく首に噛みついてとらえ、鋭い爪ではらわたを引き裂いて、生き血と共に臓物をすする。
狼男が満月の日に現れるなら、そいつは雨の日に姿を現す。濡れた毛並みが重々しい足音を立てて、雨を遮る壁の中へと這入ってくる。とどろく雷にシルエットが照らされ、らんらんと目が光る。
――ふと気が付けば、外は雨が降り始めていた。しとしととした雨音が室内を、女を包んでいる。窓の外で水滴が落ちる音。ひたりと、濡れた何かが床を踏むような音。……いいや、幻聴だ。振り返っても、部屋には何もいない。
🃏 → 8🍀
「男は、『何かいるなんて気のせいだろう、大丈夫だよ』と笑って、カーテンを閉めた」。
ムードメーカーな登場人物は、恐怖を緩和させるための常套手段だ。恐怖の元凶に対しても明るく振る舞い、そして行動を遅らせる。今の女のように。――いいや、違う。これは物語なのだから、物語に対してだけ言葉があるはずだ。女は最後の一行を上から塗り潰し、気を取り直した。
その怪物は、きっとあらゆる隙間から侵入してくる。窓を閉めたって、扉を閉めたって、無駄なのだ。……しかし、あまりに完璧すぎる怪物は、退治の糸口が見つからないものだ。何か一つ、弱点を作ろう。例えば、何か苦手なものを見ると、丸まって動かなくなるだとか。そう、今のこの猫のように。
🃏 → 7🧡
いくらそいつが怪物であろうとも、本来は猫なのだ。ねこじゃらしのような動くものに引っ掛かるし、またたびを好み、水が苦手だ。だから、雨の日に雨を避けて室内へと這入ってくる。バケツ一杯の水をかければ退散していく。……大きなバケツなんて、うちには置いていないけど。
いつの間にか、猫の気配が消えている。どこに行ったのだろう。どこか窓でも閉め忘れていただろうか? 施錠せねばと思う反面で、今は確かめるのもおっくうだ――そいつが来るかもしれない雨の日だから。
🃏 → 4🍀
そいつは暗闇が居場所だ。人を食って満足したか、それとも退散させられた後は、幽霊のように闇に溶け込んで見えなくなる。静かにそれを見送った人間は、再びの襲撃に怯えなければならない。窓の向こうにらんらんと光る眼を見たら、目を合わせてはならない。そいつは招かれていると思ってしまうからだ。
🃏 → 11🧡
視界の隅、窓の先で、何かがちかちかと光った。光っているのは、室内の明かりだ。しばらくの執筆で固まっていた姿勢を伸ばしつつ、席を立ってカーテンを閉める。何かいるなんてのは気のせいだ。
この電灯は、最近たまに光が途切れることがある。寿命か何か、そろそろ取り替えなければならないようだ。結構最近新しくしたつもりだったのだけど、自分の時間感覚は当てにならない。
机に戻る最中で、猫の姿は見当たらなかった。やはり、家から出てしまったのかもしれない。外を散歩して戻ってくるなんてのは日常茶飯事だから、大して心配はしていないが――。そう、心配は不要だ。事故でもなければ、それでいい。夜の闇に紛れる捕食者は、存在しない。そのはずだ。
そのはずだったのだ。
それから
ある作家が行方不明であるとのニュースが報道された。家の扉が開きっぱなしで、連日続いた雨風が吹き込んでいたらしい。初めにその状態を見つけた編集者は、猫が部屋の真ん中で寛いでいるのを見た。黒猫だった。
事件に巻き込まれた線で捜査されたものの進展はなく、些細な可能性として自殺も挙げられたが、ついに行方が判明することはなかった。
書きかけであると思われる原稿――飲みかけのコップ、散らしたままの紙など、明らかに机は作業途中だった――は後に編纂され、遺構として出版された。
女の行方が世に知られたのは、それきりだ。