己の腕に失望することは、これが初めてではない。
私を慰める大人は、口を揃えて「まだ子どもだから」「成長は今からだ」と言う。――そう、目の前のG-Pだって。
「まだ子どもだ。筋肉の作られる時期は今からだよ」
地べたでひっくり返る私に、言葉と共に手が差し伸べられる。魔術師らしい指輪が嵌まり、杖を握っていた跡があるだけの、傷一つ付いていない手。私が傷一つ与えられなかった手。
その手を取る気にはなれなかった。
私が気を損ねていると見えたのか、重ねて言う。
「魔術に人の業で追いつこうと思うな。偶然でできたとしてもお前の幼い体には大きな負担をかけるし、そもそもは一握りの武人だけにかなう行いだ。よほど老成した武人か、僕のような魔術師相手に特化している……フワみたいなやつか」
「フワは追いつくことができる」
「あれを基準にするな。お前まで頭がいかれてしまう」
私が唇を尖らせると、G-Pは大きなため息を吐いた。私やリヘル相手にたまにやる、大人の立場から言い聞かせるときの振る舞いだ。
「成果を急ぐな。そういうやつから死んでいくんだ。……お前には分かるだろう。それとも、子どもには難しいか」
分かる、と答えねばならない問いかけだった。さらに駄々をこねようものなら、私の仕事の機会が減るに違いない。実戦の機会を失うことはなるべく避けたい、だから渋々でも頷くしかない。
G-Pは「よろしい」と杖を引いた。伸ばした小さい手を取り、引き起こしてくれる。
外套の土を払う私を、G-Pはやや退屈そうに待った。彼はいつもこういう顔だ。やるべきことがあるときですらこういう顔付きだから、私の硬い表情筋と同種なものかもしれないけど。
数か月もこの宿にいれば同属の顔つき一つには慣れたものだが、実際に支度で待たせている手前、居心地はよくない。「一つ尋ねてもいいか」
「どうぞ」
「G-Pも無力さを感じたことがある?」
今においては退屈しのぎの問いかけだが、前々から気になっていることでもあった。悪く言えばいつでも退屈そうな、よく言えば何にも心を動かされないような顔をしている男の弱味は、どうしたって気になる。
そういう意図が通じたようで、G-Pはやや目を丸くして瞬く。「あるよ。たくさん」
それは、私にとっては珍しい表情だった。
「……どんなふうに?」
「どんな……お前と同じだ。力及ばずだったとか、負けて悔しいだとか」
「勝ったときは嬉しいのか?」
「そりゃあね。僕はリヘルほど表情豊かではないが」でも、と誰にともなく頷く。「自分の力が敵うというのは、ある意味で存在意義みたいなものだ」
存在意義。
その言葉の意味を呑み込みかねていると、彼は「ほら」と急かした。
「お前にはまだ早い話だ。続きは、一度でも僕を打ち倒してからだな」
思案の時間を取り上げられた私に、問答の意味するところはさっぱり分からなかったし、続く言葉は「つまりお前にはまだ無理だよ」と同義でもあった。しかし、それよりも。先程の問いとは違い、素直に頷く気になれる。
「つまり、私はいずれ追いつけるってことでいいのか?」
「……口ばかりが調子に乗るなよ。腕が追いついてから言え」
「もちろんだ」
先に踵を返したG-Pには、漏れた笑みを見られずに済んだ。追いかけるまでもなく二つの歩みは並ぶ。何一つそういう言葉は掛けられていないが、それでも、どこかの部分を認められたような気分だった。