シナリオ:穴を掘っている
このシナリオでスートだけ使うの、雰囲気がよい。
穴を
🃏 → ♠スペードの 6
穴を掘っている。満月が見張っている。
視界を大きく照らすのは頭上から射す満月だ。いやに大きくて丸くて圧迫感のある月は動かずに俺を見ている。いいや見張っている。いいや月に意思などはない。月はこの暗闇の上に浮かんでいるだけで俺は穴を掘っているだけだ。
🃏 → 🍀クローバーの 8
スコップが濡れる。雨が降り始めた。
手元と足元とその先の穴が暗くぼやける。月が隠れて雲が出ている。土臭さはじき湿り気のあるものに変わりそのうちにぽたぽたと雨粒が落ちてくる。冷たい滴が頬を撫でて指を伝って穴へと吸い込まれていく。水分の反射が暗い穴をわずかに照らす。
🃏 → 🍀クローバーの 13
光りの明滅。車のライトを何かが遮る。
かっと暗くなってそして眩しくなった。スポットライトのような明かりは先程と変わらずに俺を照らしている。影をだぶらせたものの正体は分からない。いいや何もいない。
🃏 → ♠スペードの 7
見つめる。自分が掘った穴を。
穴は暗くそして深い。湿り気を帯びた内部の壁がてらてらと光を反射している。だんだんと深くなっていく穴はそろそろ俺一人も屈めば埋まりそうである。そしたら蓋を被せるのは誰になるだろう。どうせなら後始末までちゃんとしてくれるほうがいい。そうに違いない。
🃏 → 🧡ハートの 4
声。家族、あるいは親しい誰かの声。
耳に馴染んだ声は優しくて鈴を転がすようだ。お世辞にも雨の日の土塊の中に似つかわしいとは思えない。しかしそうするしかない。誰かに見つかって取り上げられて棺に収まるよりはましだ。海でぐずぐずに膨れて浮いて魚についばまれて四散するよりはましだ。
🃏 → 🧡ハートの 5
ささやく。「悪人も天国に行けるだろうか」
神が存在する場所として天上を指すのは俺の宗派ではない。仮に天上に理想郷たる天国が存在するとしたら死者は空に浮かせてやるべきということになる。人は落ちてしまうからそれは叶わない。俺は何者も信じていない。ただお前が迎えに来ると信じている。
🃏 → 🧡ハートの 12
愛ゆえに殺した。
蝶の胸を潰すように。
むつかしい死蝋化を望むように。
美しいものをこの世にそのまま留めておく手段は少ない。たいていは欺瞞か誤魔化しか夢だったりする。だから俺も諦めた。次点として最も望ましいのは土に還すことだ。自然に飲まれればやがては空に還ることができるのだ。一見矛盾した地中と空はだから繋がっていてだから俺は穴を掘る。
🃏 → 🧡ハートの 13
愛する者を。
誰も開けることのない棺桶を捧げてやる。
🃏 → 🍀クローバーの 6
地面に横たわる彼/彼女は、あなたの嫌いな人間だ。
土に横たえたままの身は抱えようともずっしり重たい。魂の重みと言うものがもっと手に抱えるようなものならば楽が出来たのに。いいや楽をするべき理由はないのだ。修験者と同じだ。深い穴を掘るでもなんでもいいから何か苦労して成し遂げるべきなのだ。望まぬ苦労を負うからこその価値が生まれる。お前が日々をそうして過ごしていたように。
🃏 → Joker!
目を閉じる。
目を閉じる。
目を閉じる。
🃏 → 🔶ダイヤの 9
重圧、プレッシャー、不安に気付かないように。
出来たばかりの棺桶の中にさあと雨は降りかかる。雨を浴びるお前は静かに目をつぶっている。だから俺も目をつぶる。俺の苦労の末にようやくお前は満たされることができる。祈りの仕方なんぞ知らないから俺が捧げるのはこの棺桶だけだ。静かで朽ちることのないゆりかごだ。俺には必要ない。お前のものだ。何もかもお前のものだ。
🃏 → 🔶ダイヤの 13
目を開く。「何してるんですか?」
耳に届く。雨音と誰かの声と俺の息遣いと。俺は俺の知らないものを耳に入れないから俺に聞こえるものは俺の声だけだ。ここには何もいない。お前もいない。いいやお前に捧げる棺とお前はある。ここには何もいない。お前の棺に蓋をすべき俺がいる。