シナリオ:たちびと
準備
🃏 → 🔶ダイヤの 2
女!若い学生、中学生くらい
黒いセーラー服。
🃏 → ♠スペードの 10
🃏 → 🧡ハートの 10
🃏 → ♠スペードの 11
感情:ネガティブ2,ポジティブ1
いいわけはないと思いつつも、そうせざるを得なかった。実際壊してみたら、ちょっと面白い気持ちがなくもない。
合計:31
強気!心底破壊する心積もりでやった。
🎲1d6 → 5
全壊!〝やった〟。全て壊し切ったし、残るものは木片と垣間見える注連縄のみだ。
🎲1d6 → 3
呼声。何かが私を呼んでいる、あるいは知らせている。
壊す日
受験期はつらかったけど、受験期の学校は楽しかった。部活も少なくなる時期、勉強のために夕方まで学校に残っている子が多くいる。私は毎日塾があったけど、「学校で勉強してからいく」とママに頼み込んで、その時間を少し遅らせた。息が詰まるのだ。家も、塾も。学校には、他人事みたいな顔の先生も、頬を打ってくるママもいない。逃避というほどではないけれど、自由な気持ちで過ごせる、数少ない時間だ。
そんな風に得た疑似的な自由時間だから、通学の間に散策の時間が生まれるのも自然なことだった。遊びに行っているとばれたら怒られるかもしれないけど、もう別にいい。息が出来ないよりはいい。――その社を見つけたのは、学力テストの結果が出た日の夕方のことだ。
端的に言えば、叱られる点数。決して悪くはないのだけど、そんな成績では家を継げないと怒鳴られるのは目に見えている。家の玄関を見るのもおっくうでおっくうで、知らない道を歩いてみた。砂利道はでこぼこしていて、歩きづらい。でも、歩道を形作る石をたどるのが無性に楽しくて、バランスを取りながら道なき道を進んだ。
ちょっとした山道だ。折れた木が頭をかすめるし、そばには崖が下っているけど、危ないってほどでもない。そういう知らない道は冒険だった。画一的な試験で高得点を目指すより、未知を探るほうがずっと楽しい。……負け惜しみであることは、私もよく分かっているけど。
ふと、歩道の石の色が変わった。色というか、人の手が入った感じ。山道ははっきりとした方向に伸びていて、その先には変な建物がある。人一人も入れないくらいの、小さい建物。神社にしては小さすぎるし、お地蔵さんにしては大きい。
それが何なのかの答えは、それ自体に書いてあった。すごく読みづらい筆のような字で、実際に読めなかったけれど、何となく分かった。ここは、何かが祀られているのだ。神様か、それに近い、人の訪れを待つもの。
賽銭箱もないけど、お参りをしてみようかな。作法なんて知るわけもないから、とりあえず手を合わせて、お祈り。何を報告しようかな、と考えて、思い浮かぶものは一つだけだった。
ぱっとしない点数の答案。
途端に、目の前の建物から、ママの声が聞こえるように思えてきた。まだ満点じゃないの。完璧を目指しなさいって言ってるでしょ。お医者様になったら間違いは許されないんだから――。
気付いたら、鞄を振りかぶっていた。何かを追いかけないといけない気がしたのだ。祠がそれに驚いて逃げるわけもなく、鞄の角を屋根で受け止めて、そして、耐えられなかった。
神様なら全てを変えてくれる。そう期待したこともあったが、結局のところ幻想だ。神頼みして済むなら、今頃の私はママに叱られることも、殴られることもなかったはずだ。人に頼んでどうにもならないのだから、私が自分の手で。
木製の屋根はばらばらと崩れていく。
時間が止まったように、破片はゆっくり落ちていく。やるからには完璧じゃないとおかしいでしょ。支柱が折れた。あなたは不完全なのよ。重みを支えきれない張り紙が破れて落ちる。こんな半端な点数は意味がないのよ。
「本当にそう?」
幻聴だ。
気が付けば、目の前にあるのは残骸だった。古びた木材に走る新しい裂け目。巣を荒らされた蜘蛛が、林道を這って逃げていく。鈍器となった鞄の角は凹んで、傷が付き、ぼろぼろだった。
🃏 → 🍀クローバーの 3
男性、中高大学生、知らない人
🎲1d6 → 1
平静。動揺のない、言及も特に見られない
🎲1d6 → 5
じっくり話す!
🎲1d6 → 6
私は困惑した。そりゃそう。
息切れするくらいに大きく振りかぶっていたものだから、隣に来た人の気配に気付かなかった。その人は普通に隣に歩いてきて、壊れた祠を眺め始めた。私と同じ制服の男子。学年バッジは付いていないし、今までに見たことのない顔だ。
さっきのは確かに幻聴だったけど、この人は幻覚ではない。私はあまりに驚きすぎて飛びあがってしまったけど、男子は一切気にしない様子で言う。
「嫌いだから壊したの?」
「えっ……ちが……違うよ。何が? これのことはよく知らなくて……」
「知らないけど壊したの?」
言い口は淡々としていて、けれど責める口振りではなかった。ママと違って。私が息を整えるまでの間、男子はただの聴取を続けた。すっきりした? とか、疲れなかった? とか、本当に中身のない質問ばかりだった。私が適当なことを聞き返すと、それはちゃんと答えてくれた。ごく普通の、世間話だった。目の前に壊れた社があるのは、普通ではないけど。
中身のない世間話はひとしきり続いた。聞くべきことはもっとたくさんあるような気がする。あなたは誰、だとか、誰にも言わないでね、だとか。けれど、状況が奇妙だからむしろ切り出せなかったし、いざ尋ねようと口を開いたとき、彼はちょうど踵を返してしまった。
「またね」
そう言って道を戻っていく、やけに姿勢のいい背を見送った。後に残るのは、少し疲れた私と、ぼろぼろの木片だけだ。
壊したあと
🃏 → 🧡ハートの 6
ポジティブな変化 若干量
🃏 → 🔶ダイヤの 3
ポジティブな関係
🎲1d6 → 2
全く話さない
彼は時たま、私の元へ訪れた。誰もいない教室、自習の図書室、帰り際の夕陽の見える踊り階段。そういう場所にふらっとやってきては、毎回のように中身のない世間話をしていく。あの日の器物損壊を咎めようだとか、からかおうというような素振りは全くない。私が目に血の浮かぶ痣を作っているような時も、まるで何も見えていないかのように気にしないのだった。奇妙だけど、私にはそれが心地よかった。
あの祠については、その後何も聞かなかった。いつ犯人捜しが始まるかと数日びくびくしていたのだけど、結局、私が地元を出てからも続報はなかった。山奥にあるお社だから、そもそも使われていなかったのかもしれない。それか、風で壊れたことになっているだとか。今となっては、何とでも言える。
私が人知れずやった初めての悪さは、妙にすがすがしい気分だけが残っている。