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わたしの帰還

2024-11-02

シナリオ:Anamnesis

シャドウ:
🔮< 1 魔術師> 意志/才能/創造 // 混迷/スランプ/裏切り

ここはどこだろう。

Coin

🔮<硬貨♦️ 9 > 物質的な豊かさ/達成
9:自分が何かを欲していることに気付く。

やけに喉が渇いて目が覚めた。この空気は、私の知っている空気と違う。何が違うかは分からないが、とにかく違和感があって、それがまどろみを邪魔している。
水が足りない。腹も空いているか。いいや、何かもっと、忘れている気がする。忘れているのだ。私自身が何かは分からないが、それとは別の何かを。

🔮<硬貨♦️ 3 > 技芸/取引/熟練工
己の声。

「のどがかわく」かすれた声が出た。張りがあるとは言い難いものの、さしてか細くもない声。一度口を開けば、この口はよく喋り慣れていた気がしてくる。肝心の、次の言葉は出てこなかったけど。

🔮<硬貨♦️ 2 > 陽気さ/文書の報せ
衣服。

ようやく瞼を開く。目の前は青空で、温かい日差しが顔に射している――今のところ、耳も目も声も機能しているようだ。ついでにと身を起こしてみれば、体も機能している。身に着けている服は砂まみれで、しかし大したほつれはなかった。頑丈そうな服だ。何と比べて頑丈そうと思ったのかは分からないけど、ともかくそうらしい。

Sword

体が動くなら、いつまでも寝ているわけにもいかない。私と、私以外のことを知らねばならない。膝が固まっていないことを確かめて立ち上がる。

🔮<剣♠️ 4 > 退却/隠遁/墓/棺
廃墟。

抜けるような青空と、日光を遮る梢。その傍にあるのは古びた家屋だけだった。この古び方では住人もいないだろうが、どことない懐かしみがある。そう、田舎の祖母の家という風合いの。

……私の親縁の家だろうか? 否。
懐かしみはあるものの、それはあくまで「一般的な想像に基づく」というやつだ。感覚で分かる。少なくとも、久々に祖父母の生家に帰省したって状況ではない。では、なぜこんなところに私はいるのだろう。なぜこの家は古ぼけているのだろう。

窓ガラスは割れており、壁も模様で彩ったようにぼろぼろだ。抗えない自然の風食の結果は、長く続いた平穏と、少しの寂寥を感じさせる。私にそういう感覚が蘇るということは、私は風趣を感じ取れる人間であるらしい。

🔮<剣♠️ 6 > 仕事をやりこなす/仲介者/得策
人が私についてささやく。

獣道を少し歩くと、だんだんと田舎らしい野道になった。知らない家、看板、人。少しの距離を置いて人とすれ違うが、彼らが私に何かを言ってくる様子はない。挨拶も、何も。悪口を言われているわけではなさそうだが、かと言って日向口というわけでもなさそうだ。おそらくは、無関心と詮索を含めたもの。私は余所者であるらしい。

🔮<剣♠️ 王 > 裁判官/正義/権威/命令
子どもが親の腕から振り落とされているのを見た。

田舎の村は、のどかだった。人が多い。私がうろついていても指を指されることはないから、たぶんそこそこに土地が広くて、そこそこに人が多い村だ。山中でも、人の話し声がどこかしこから聞こえる。人々は堂々と暮らしている。

子どもの泣き声が聞こえた。機嫌の悪そうな母親が仕方なしにそれを抱え上げる。私みたいに土まみれになる服は、子どもの不安を一身に受け止めた証拠だろう。のどかな光景ではあるはずだけど、少しだけ複雑な気分になった。嬉しいような、気まずいような。

Cup

何の気なしの歩みだったが、足は覚えていたらしい。私の家を。
あまりこの家に歓迎された気がしないのは、私自身がまだこの家を歓迎しないからだ。

🔮<聖杯♥️ 3 > 豊か/幸福/成就/治癒
ゴミ箱。

看板の横にしつらえられた箱には、土と落ち葉が溜まっている。郵便を受けるための箱だろうが、見る影もない。蓋を開けていじってみたが、土の重みはどうも動かないので諦めた。
例の廃墟とまではいかずとも、生活感に欠ける家屋。私はずいぶんと長く留守にしていたようだ。

🔮<聖杯♥️ 8 > 成功の放棄/謙遜
ドアの下に何かが潜り込んでいる。

鍵はポケットに入っていた。しかし、まだ見覚えのない家なのだ。私の家があるのはいいことだけれど、この鍵が合うかどうかを確かめるのは、少しばかり躊躇われる。
さ迷って落ちた視線は、扉の下の何かを発見した。封筒だ。濡れて乾いた跡が少しだけあるが、インクが染みた様子はない。封蝋は赤い、よくある装飾のイニシャル。宛先はこの家の看板に記されていた名と同じだ。差し出し人も、同じ名だ。

私から私へ。

何となく、帰還する私を迎えるための一通に思えてならない。私は、私がこうして帰ることを知っていたのだ。

🔮<聖杯♥️ 4 > 倦怠/飽食/混ぜ合わされた快楽
本棚の本が目に留まる。

私は招かれている。

玄関を開いて、中へ。少し埃っぽい臭いのする部屋は、物が少なくて片付いていた。廊下には奇妙な絵がたくさん立てかけられている。今の私とは趣味が合わないかもしれない。ロビーを過ぎれば書斎らしきがあり、そこもまた埃のこもった臭いを充満させていた。まずは廊下で体の埃を落とし、それから室内に入り、窓を開ける。はためくカーテンを縛り付けながら、本棚の本が目についた。
私には読めない言語の本だ。手続き記憶なのか表札は読めたが、これは違う。たぶん、外国語か未知の言語か。

Wand

🔮<棒♣️ 9 > 抑圧下での強さ
何かが欠けていると感じる。

本棚に並ぶ書籍はどれも似たようなもので、私に読み取れるものは少なかった。分かったものと言えば、家具の組み立て説明書と、絵本だけ。この家には絵本を読むような存在が住んでいたらしい。
今は静かだ。私しかいない。

……私は、大切なものを――もしかすると、自分の記憶などよりもずっと大切なものを――すっかり忘れているのではないだろうか?

🔮<棒♣️ 7 > 勇気/ディスカッション/交渉
自分の持ち物を一つ壊す。

頑丈な服の下に下がっていた、青い石のペンダント。高価そうで蓋付きの品だから、落ち着ける場所で改めて確認しようと思っていたのだが――。
今、中を見ることが急に恐ろしくなって、机に叩きつけた。もう戻らないものがそこに封じられている気がしたのだ。虚しさをただ振り返るだけの行為に、果たして何の意味があるだろう? 私は未だ、この部屋の記憶すらもないというのに。

ペンダントは小気味のいい音を立てて砕けた。じゃらりと鎖が広がる。蓋のつまみはひねくれて引っ掛かり、二度と開かない鍵のように見えた。

🔮<棒♣️ 6 > 勝利者/大ニュースの到着
気晴らしが必要。

長居はしたくない。書斎を出れば、通路の絵が私を出迎える。

当初は趣味の悪い絵かと思ったが、今こそはこれを眺めるに相応しい時間かもしれない。空しい退屈の時間を埋めるための絵。細かくて出口の見えない迷路を、焦燥しながら濁った水で満たすような絵。似たり寄ったりな絵ばかりだけど、目を逸らすこともせずに眺めて歩いた。

Who I am

🔮<棒♣️ 騎士 > 出発/親しみやすい若者

この広い家に私は一人だ。それを、かつての私は予想していたような気もする。まるで、叱られることを分かっていて行ういたずらのように。

叱り立てるべき私はいない。代わりに残された私は、道理も何も分からず、過去の自らに翻弄されているだけの存在だ。これから私がどう生きるかまでは、過去の私にも、その他の誰にも定義できないのだろうが――知るべきことは、あるかもしれない。遺された封筒、ここにその答えの全てがあるはずだ。