シナリオ:LEBENSRÜCKBLICK
キャラクター:ある山村にて
夢
車輪が小石を弾く音で目が覚めた。
常歩で進む馬車は穏やかな揺れがあるのみだ。流れてゆく景色は、どこかも分からぬ森の中を進んでいる。
――今まで、私は何をしていたのだったか。長く続くつまらぬ景色は、ぼうやりと物思いにふけるに十分だった。
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古い記憶は:握りしめた手だ。
古い記憶が、遡るように次々と思い起こされていく。あの小さな手は誰だったか、ああ、一番上の子だったか。
二日かそこら続いた難産だった。ヒルダは憔悴の有様で、私はわずかな手伝いの他は付き添うことしかできないし、何とも気が気でないのだった。皺くちゃの生物が産声を上げたときは、心底ほっとしたものだ。大仕事から解放されたヒルダと一緒にあの子を囲んで、小さな手を握り合った。二人ともよく頑張ってくれた。
私もまだ病みがちな時期だったから、お産を見届けたあとに気絶するように眠ってしまったんだっけ。だいぶん朧気な意識の中で、絶対に家族を守ろうと決心したものだ――
あの手は小さいながらも温かかった。今、あの子は、村はどうなっているだろう? ……外の景色は、何も答えを返さない。
🎲1d6 → 1
人生で最も大切な:風の吹き抜ける開けた場所。
柔らかな森の香りが頬を撫でていく。そうだ、この風の温度はよく知っている。幼いころから病気がちであった私は、時たま病室を――村の診療所はどこも大した設備ではなかったが――退屈に耐えかねて抜け出して、村はずれの景色を見に行ったものだった。
森を抜けた先の大きな崖は、大人の近付かない絶好の隠れ場だ。そこで私のようなやんちゃ坊主と、同じく好奇心のある少女が鉢合わせた。それがヒルダだった。
あるものと言えば遠い景色ばかりで、遊び道具になるようなものは少なかったけれど……逃避の度に秘密基地のような空間で過ごし、後の二人にとっての大切な場所となった。そして、今の子どもたちにとっても。……。
思い返していれば、童心に返ったような気がしてくる。いいや、あるいは本当にそうなのか? これは、私の人生の旅なのだから……。
🎲1d6 → 6
忘れられない瞬間は:送り出した誰かの背中。
病床にあった私の思い出の多くは、誰かを見送る場面が占める。
母は私の世話で忙しく、たまの買い出しで麓の町へ向かうのは父の仕事だった。いつもは着ない服に着替える父の後ろ姿をよく覚えている。いつもより少しだけ小ぎれいで、いつもより着慣れなさそうで。……町というものを、崖上から眺める屋根しか知らない私は、お出かけするなら羨ましいな、なんて呑気に思っていたものだ。いかに苦労したか、今なら分かる。
……最後に感謝を告げたのはいつだったか。
🎲1d6 → 2
失ったものは:落ちた仕事道具。
近頃は――今は時間の感覚はあまりないけども――自分のことばかりだった。両親に伝えられていないことは多いし、スーザンを撫でてやることも少なかった。親を失った今、きっとあの子は寂しい思いをしているに違いない……せめて爺婆がそばにいてくれればいいのだけど。
最後の記憶にあるのは蹂躙された村だ。我が家は延焼を免れるだろうけども、畑は既に見る影もなかった。きっとあれの再興は苦労するだろう。私も手伝えてやれたらよかった。でも、残った家族で支え合って長く生きてくれたら、それに越したことはないのだ。
🎲1d6 → 4
最後に見た:無機質な病室。
ふと、馬車が軋む音を立てながら停車した。隙間から景色を見るに、ここはただの森の中だ。不思議に思って先頭を覗いてみれば、御者は始めからいなかったらしい。利口な馬たちは褒めてやりたいが、私は置いてけぼりだ。
仕方なしに幌の出入り口を解き、顔を出す。……森の道には見覚えがある。もしやと降り立って見回す。おや、あの村だ。私の村だ!
焼けた家屋も、転がる見知った顔の死体も、おかしなものは一つもない。代わりにあるものは、見慣れた家屋、畑仕事の農民、それから……。診療所の前を通るのはいつ振りだろう。おかしなものは何一つない。私の村だ。そして……欠けることのない、私の家族たちだ。